澤田徹 日野直樹 宇山攻
呼吸器外科専門医2名、後期研修医1名の3名体制で診療を行っています。
手術は基本的に呼吸器外科チームのみで行っています。
胸腔鏡手術を安全かつ円滑に施行可能な技術を有する認定である日本呼吸器外科学会・胸腔鏡安全技術認定医に認定されています。
胸腔鏡安全技術認定医証
胸腔内臓器の中で心臓、食道を除いた臓器、すなわち「肺、気管・気管支、縦隔、胸壁、横隔膜」の疾患を担当しています。具体的には
ほかには内科的に診断困難な肺病変、胸膜病変の外科的生検などを行っています。
当院は日本呼吸器外科学会専門医制度関連施設であり、多くの呼吸器外科患者を受け入れています。年間約80例前後の呼吸器外科手術を行っています(下記手術実績参照)。
2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | |
---|---|---|---|---|---|---|
肺悪性腫瘍 | 44 | 40 | 35 | 34 | 32 | 58 |
肺良性腫瘍 | 1 | 4 | 9 | 1 | 3 | 3 |
気胸 | 16 | 15 | 19 | 12 | 25 | 10 |
膿胸 | 1 | 4 | 3 | 5 | 3 | 8 |
縦郭腫瘍 | 3 | 4 | 4 | 1 | 4 | 3 |
その他 | 11 | 6 | 8 | 10 | 10 | 3 |
計 | 76 | 73 | 78 | 63 | 77 | 85 |
咳、血痰、呼吸苦など、なんらかの症状がある場合はまずかかりつけ医の先生にご相談ください。検査により肺癌が疑われた場合や、肺癌が否定できない所見が見られた場合は紹介状を持って当院呼吸器内科、または呼吸器外科を受診してください(院内で連携しておりますのでどちらでも対応可能です)。
肺癌健診で要精密検査・要治療とされた健診結果票をお持ちの場合は、直接当院受診でも、かかりつけ医の先生からの紹介でもどちらでも対応可能です。
明らかな充実性の腫瘍であれば、まず診断のために気管支鏡下生検を行います。当院には多数の呼吸器内科専門医、および気管支鏡専門医が在籍しており、安全で確実な検査が行われています。
気管支鏡検査中は一般的に静脈注射により眠っていただくため苦痛は少なく、検査後は覚えていない方がほとんどです。
癌が強く疑われる特徴的な画像所見を呈する症例の場合は、気管支鏡検査による確定診断を省いて、そのまま手術の方針となることもあります。
近年増えているすりガラス状結節の場合には、その形状や大きさにより対応は異なります。
CTで発見されたばかりの場合はまず経過観察を行います。経過観察中に消失した場合は炎症性変化(良性)であったことになり、様子をみることが可能です。
経過で不変ないし増大する場合は腫瘍性病変の疑いが強くなるため、診断と治療をかねた手術の適応となります。
*実際にはCT画像所見だけでなく年齢や併存疾患、病変の部位を総合的に判断し患者さんと相談の上方針が決定されます。
すりガラス状結節の中でも、「境界明瞭」で「外に凸」なものはそれだけで非常に強く肺癌が疑われます。
肺癌と診断された場合(もしくは強く疑われた場合)は、正確な病期診断をつけるためと耐術能を評価するためにPET-CT、頭部MRI検査、心電図、呼吸機能検査、心エコーなどが行われます。
肺癌は腫瘍の大きさや浸潤の程度、リンパ節転移の程度、遠隔転移の有無により病期が分類されます。このうち一般的にはstage 0~IIIAが手術適応になります。IIIA期の一部では術前化学療法または化学放射線療法を行ったのち、手術を行うこともあります。
N0 | N1 | N2 | N3 | M1a | M1b | M1c | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
T1a (≦1cm | IA1 | IIB | IIIA | IIIB | IVA | IVA | IVB |
T1b (1-2cm | IA2 | IIB | IIIA | IIIB | IVA | IVA | IVB |
T1c (2-3cm | IA3 | IIB | IIIA | IIIB | IVA | IVA | IVB |
T2a (3-4cm | IB | IIB | IIIA | IIIB | IVA | IVA | IVB |
T2b (4-5cm | IIA | IIB | IIIA | IIIB | IVA | IVA | IVB |
T3 (5-7cm | IIB | IIIA | IIIB | IIIC | IVA | IVA | IVB |
T4 (>7cm | IIIA | IIIA | IIIB | IIIC | IVA | IVA | IVB |
手術不能な方や内科的治療後の手術適応境界領域の症例においては、キャンサーボードや合同カンファレンスを通じて呼吸器内科医や放射線治療医と治療方針を検討する機会があり、患者さんそれぞれに適した診療が行える体制が整っております。
当院ではほぼ全例で胸腔鏡下での低侵襲手術、主に1.5cmのカメラポート、前方に3~5cmの術者孔、後方に2~3cmの助手孔をあけた3ポートで手術を行っています(図1a)。腫瘍径が非常に大きく胸壁に浸潤している症例や、特殊な気管支形成を要するもの、肺動脈に浸み込む強固なリンパ節を有する症例などの場合は、安全で確実な手術のために通常の開胸下手術を選択しています(図1b)。
2020年1月からはさらにすすんだ低侵襲手術として単孔式手術を取り入れており、一部の症例(転移性肺腫瘍でかつ中枢にあり葉切除を必要とするもの、すりガラス状陰影を主成分としリンパ節転移の可能性は低いが腫瘍の範囲が広く葉切除を必要とするもの)に対しては、前方にあけた4cmの傷1つで葉切除を行っています(図1c、図2)。単孔式手術は傷が一か所ですむため、従来の3ポートVATS(胸腔鏡下肺切除)と比べ開胸術後疼痛症候群(いわゆる慢性創部痛)を訴える頻度が低いとされています。
当科では最新の手術支援ロボット「ダヴィンチXi」を用いたロボット支援下手術も導入しております。基本的な手術手順、手技は大きくは変わりませんが、 胸壁にあける孔の位置が異なり、胸腔鏡手術よりも下位肋間に連続するように小さい傷を4か所+助手用ポートを一か所開けて行います(図1d)。ロボット手術専用の多関節鉗子を用いることで狭い胸腔内で自由に手術器具の角度を変えることが可能となり多方向からの剥離操作が可能です。また手振れ防止機能がついていることで従来の胸腔鏡下手術よりもより細かく繊細な操作ができる特徴を持っています。
患者さんにとって最も重要なのは安全かつ確実な腫瘍の切除とリンパ節廓清と考えていますので、傷の小ささだけに固執するのではなく症例一例一例を十分に吟味し、単孔式VATS、3portsVATS、開胸手術、ロボット支援下手術の中から症例に応じて最も適切なアプローチ方法を選択しています。
当院で行った単孔式右上葉切除術後写真
前方創のみですべての操作を行い、術後のドレーンも同じ孔に留置します。
ロボット支援下手術の様子
肺は右側は上葉、中葉、下葉の3つの葉に、左は上葉、下葉の2つの葉に分かれています。さらに細かく分けると右側は10の区域に、左は8の区域に分けられます(図3a、3b)。
肺癌の標準術式は腫瘍が存在する部位の葉切除になります。一部のすりガラス状陰影、腫瘍径2cm未満の結節性病変では区域切除や部分切除などの縮小手術を行うこともあります。
区域切除は断端再発が5%程度みられるという報告があるため、腫瘍の部位や形状、また年齢や術後予想される肺機能、背景肺の状態(間質性肺炎など)を総合的に評価し術式を決めさせていただいております。
また年に数例になりますが、気管支形成や肺尖部胸壁浸潤癌など、高度技術を要する呼吸器外科手術も問題なくおこなっています(図4)。
平均して術後から5日目頃に主治医から退院の許可がおります。以降は病棟スタッフと相談しながら退院日を決めることになります。早期退院を希望される場合は退院許可後すぐにでも退院可能ですし、療養のために入院継続を希望される場合は若干の猶予を設けることも可能です。
摘出標本を病理診断医に診てもらい、退院後外来受診するころに最終的な病理診断結果をお伝えさせていただきます。病期により追加の化学療法が必要となることがあります。
術後2年間は約3か月おきの外来経過観察、3年目からは半年おきの外来経過観察を行っています。
原発巣が制御されており、かつ観察中に新病変がみられない転移性肺腫瘍は手術適応になります。原発巣を治療している主科の先生からご紹介いただき手術を検討します。
どの薬剤が効きやすいかなど、癌の性格を調べるために切除する場合もあります。基本的には前述(肺癌の項)の3 ports VATS(小さな3つの傷で行う手術)により肺部分切除または区域切除、葉切除を行っています。
肺のどこかが破れて胸腔の中に行き場を失った空気がたまり、肺がおしつぶされてしまう病態です。(図5、赤矢印の箇所は虚脱した肺)
症状
肺の虚脱が大きくなると呼吸苦が出現しますが、軽い胸痛だけのこともあります。
若い人にみられる気胸は成長過程でできた肺の一部に生じた嚢胞(ブラといいます)が破れたことで生じる自然気胸がほとんどです(図6a)。ご高齢のかたの場合は上記の自然気胸の場合と、喫煙により肺が破壊され気腫状になった肺の一部が破れることにより起こる続発性気胸の場合が多いです。
また腫瘍の一部や非結核性抗酸菌症、真菌症などに伴う空洞病変が破裂し同様に気胸を起こす稀なケースも存在します(図6b)。女性の場合には胸腔内に異所性に存在した子宮内膜が原因でおこる気胸もあります。
当科は呼吸器外科関連施設であり、上記気胸いずれも対応しており多数の手術経験があります。
呼吸苦が強い場合は当院救急外来で対応可能です。虚脱がII度(I~III度に分けられ、中程度の虚脱にあたります)以上であれば局所麻酔ののち胸腔ドレーンが挿入されます。虚脱が軽度であれば経過観察することもあります。
その後(挿入前のこともあります)胸部CTを撮影し、気胸の原因となった病変がないか精査します。あきらかなブラを認める場合は胸腔鏡下に肺部分切除を行います。非常に小さい病変の場合は胸腔鏡下に嚢胞を低温で焼くソフト凝固を行うこともあります。若年者の場合は肺の成長がとまるまでの間に再度嚢胞が形成され再発の原因となってしまうことも多く、その予防のために断端に被覆材を貼付し補強を加えることもあります(自転車のパンク修理のような治療です)。
ご高齢の方の気胸の場合は症例により手術内容はことなります。切除可能であれば嚢胞を切除しますが、気腫性変化が強く切除により空気漏れを悪化させてしまう危険が高い症例もあり、これらの場合は被覆術や縫縮術、心膜脂肪織を用いた特殊な閉鎖方法などを組み合わせて治療します。
それでも止まらない場合は、内視鏡的に内側から原因気管支を詰める気管支塞栓術を加えたり、胸腔内に癒着を引き起こす特殊な薬剤を注入し胸壁と肺を癒着させることで空気漏れをとめる癒着術を追加することもあります。
原因部位の状態により様々な処置方法があります。
難治性気胸の経験も豊富なため、 状態に応じて適切な処置を取らせていただいています。
胸壁と肺の間の隙間(胸腔といいます)に膿がたまった状態です。発症から1~2週間経過した膿胸を浸出期、2~4週間経過したものを繊維素膿性期、それ以上経過し胸膜が硬く変化してしまったものを基質化期と呼びます。
浸出期はドレナージと抗生剤治療のみでほとんどが治癒します。II期、III期とI期の一部が手術適応になります。
左胸腔内に大量の膿が溜まっており、
肺は完全に虚脱している。
手術は全身麻酔下に小開胸を加え、胸腔鏡で胸腔内を観察しながら腔が多房性に分かれている場合はそれらの隔壁を破壊して単房化し、胸壁にこびりついている醸膿胸膜(ヘドロのようなもの)を掻き出して掃除する手術になります。その後しばらく抗生剤治療とドレナージが必要です(図9a、9b)。
胸壁に付着した大量の醸膿胸膜
(ヘドロ)を、掻き出して掃除する。
縦隔とは左右の肺に挟まれた空間で心臓、気管、食道、胸腺が存在します。縦隔に発生する腫瘍を縦隔腫瘍と呼びます(*注:心臓は縦隔に存在しますが縦隔疾患には含みません)。 特に多いのが前縦隔(胸骨と心臓に挟まれた空間)に発生する胸腺腫です。
縦隔腫瘍が見つかった場合はまず鑑別のために造影CT、MRI(または両方の)検査を行います。これによりほとんどの場合で腫瘍性病変なのか嚢胞などの切除しなくてもいいものなのかの鑑別がつきます。胸腺腫が疑われ、辺縁の重要な大血管への浸潤がなく切除可能と判断された場合は診断と治療をかねて手術を行います。切除が困難と判断された場合はまず腫瘍の性状を確認するためのCTガイド下針生検を行います。その病理診断結果により放射線療法や化学療法を検討します。
手術が可能な場合は全身麻酔下に、基本的に右側の胸腔から(左寄りにある場合は左側からのこともあります)3か所の小さい孔をあけ、胸腔鏡下に腫瘍を摘出します。腫瘍が周囲臓器に浸潤していたり、腫瘍径が5cmを超える場合などは安全確実な切除のために従来の胸骨正中切開下のアプローチを取ることもあります。腫瘍の性状や周辺臓器との位置関係により症例一例一例を十分に吟味し、また患者さんご本人とも相談の上、適切なアプローチ方法を選択させていただきます。
腫瘍が切除不能な重要臓器(大動脈など)に浸潤していた場合は術後に放射線療法を追加することがあります。胸腺腫は肺癌と異なり長期経過ののち再発する場合もあるため、術後の経過観察は約10年行います。
呼吸器外科を中心に消化器外科、乳腺外科、甲状腺外科と幅広く経験してきました。
これからも日々努力していきたいと思っております。
胸部外科を中心に研鑽を積んできました。目の前の患者さん1人1人に丁寧に診察を行っていきます。
経験は浅いですが、日々努力し細やかな診療・丁寧な医療を心がけたいと思っております。
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | |
---|---|---|---|---|---|
一診 | 宇山 攻 (呼吸器) | ||||
二診 | 澤田 徹 (乳腺・呼吸器) |
一診 | 宇山 攻 (呼吸器) | ||||
---|---|---|---|---|---|
三診 | 澤田 徹 (乳腺・呼吸器) |